鬼滅の刃17巻と吾峠先生の短編集を読みました。
大学の講義内の質疑応答で、
「先生の好きな助動詞は何ですか? 私は『む』です。」という質問に対し、
「私は『けむ』ですねぇ。過去推量という点で、今、作品を読んでいる私たちにも重なってくるところが好きです。」
という会話について行けなかった二シ満塁です。
今回は鬼滅の刃の単行本、最新刊と吾峠先生の短編集を読んだ感想を書きます。
※これまたネタバレ全開でしゃべりますので、ご注意※
絶賛馬鹿売れ中の『鬼滅の刃』17巻。
面白いですねぇ。
鬼滅の刃は単行本派です。(ジャンプは、HUNTER×HUNTERが連載再開したときだけジャンプ+で買う派)
友達は本誌派なので、これからもやべぇ展開が続くらしいということは、聞き及んでおります。
本巻は、ざっとまとめると、『しのぶさん、やられた?』『雷の呼吸問題、大体決着』『炭治郎さん、コツをつかみかける』という感じでしょうか。
単行本のサブタイトル『受け継ぐ者たち』に違わぬ内容。様々な因果が結集した一巻でしたね。
まず、しのぶさんがピンチ。というか、鴉は死亡って報告してましたけど……。信頼できない語り手であってくれ……。
無念、不条理、怒りを籠めた、しのぶさんの一閃は、カナヲに受け継がれたのでしょう。指文字とともに。
どうなっちゃうんです…?
次は、善逸と獪岳のバチバチバトル。
『獪岳』ってすごいネーミングですね。老獪の「獪」に、他を寄せ付けない高嶺を彷彿とさせる「岳」。
圧倒的な高みを目指す、上方のイメージを持ちました。
鬼となった獪岳は、高みに登り詰めたつもりでいる。しかし、善逸には堕ちたようにしか見えない。
善逸は、彼を象徴するような「善」と、比較的ゆったりとした意味を含む「逸」。
横一文字、一途に閃く「霹靂一閃」は、水平線のイメージでしょうか。
肩を並べて闘う仲間達を思う気持ちも、X軸なイメージ。
そんな二人が切り結ぶことは、悲しいかな、必然だったのかもしれません。
X軸とY軸は、どちらもどうしようもなく真っ直ぐな一線です。視点が変われば、自ずと立場が逆転していた可能性もあるのでしょう。
じいちゃんの左頬にある傷痕は、そんな正反対の二人を包み込む愛情の証だったのだと思います。
この戦い、約2.5話で決着がついたのは意外でしたが、まさに一条の「雷」が落ちたときのように、一瞬でカタがつくことも、二人の戦いにおいては必然だったのかも。
残された産屋敷輝利哉くん、くいなちゃん、かなたちゃんも、『受け継ぐ者』として、奮闘していますね。涙を流す一刻すら与えられない辛さは、想像し得ないものがあります。
彼らの繋いだ情報が、鬼殺隊の命を繋いでくれることでしょう。
炭治郎は因縁の相手、アカザ(変換めんどいのでカタカナで許して)と対峙。
炭治郎は戦いの中で考え、研鑽することができる人物として、よく描かれていますね。今回も走馬燈ラッシュが発動してました。お父さんめちゃつよ。
義勇さんにアザ発現。アザも『受け継ぐ者』としての象徴なのでしょう。
回想の中で伊之助が登場。伊之助が鬼滅で一番好きなキャラなので、我大歓喜。伊之助かわいいよ伊之助……。
本巻に限らずなんですけど、吾峠先生は過去話、回想話の挿入の仕方がめちゃ上手いですよね。特に、鬼の背負っている過去の描き方がすごく緻密で、残忍な印象しかなかった鬼に対しても、感情移入してしまうほど。アカザも何かしらの過去の因果を背負っているようです。
過去からの因果を、未来へと昇華するきっかけが、仄かに見えた17巻でした。
本巻も話と話の間にあるおまけページが良かったですね。
キャラの背景を説明するものも多いですし、毎回楽しみです。連載二回分ぐらい尺取りそうな過去話もちらほらありますよね。
今回は、村田さんとねずこちゃんと鎹鴉が読者の心を癒やしてくれました笑
村田さんといえば、声優さんが宮田幸季さんで、弱虫ペダルの杉本しか思い浮かばないですね。いや、良い意味で。
キメツ学園も絶好調。
同じ類いの、諫山創先生の進撃のスクールカーストもめちゃ好きなんですよねぇ。
こういう、シリアスとギャグを織り交ぜながら描ける人ってすごいですよね。羽海野チカさんとか、沙村広明さんとか。
あと、 表紙詐欺でしたねぇ。実弥、出てこねぇ。
この流れで読みました、『吾峠呼世晴 短編集』。
『過狩り狩り』は裏表紙でも紹介されているとおり、『鬼滅の刃』の前身となった作品だそうです。
作品の内容と鬼滅へのつながりは、言うまでもないので、他のことを。
吾峠先生があとがきでも触れている通り、かなり説明が少ない作品ですね。しかし、短編勝負ということであれば、説明し過ぎず、想像の余地を存分に残した方が、印象深い作品になる気がします。
それプラス、「何か突出したもの」が描けていれば良いのだと思います。『過狩り狩り』では、「事情を抱えた弱肉強食」という感じのテーマでしょうか。
あと、いかにもな敵として描かれるヴァンパイア風の男に関して。
彼が話す時の台詞は基本的に、横書きで統一されています。これは他の漫画でもよく見られる、異国語をしゃべるキャラに対して使われる表現だと思います。
キャラの背景を極力説明しない。そんな中、この横書き表記と、「理解出来ない言葉だ」という台詞で、敵対関係にあること、臨戦態勢に入ったことを簡潔かつ速やかに、読者に伝えている点がすごく良かったですね。
漫画という媒体を生かした素晴らしい表現だと思いました。
(異国語の横書き表記って、いつから使われ出したんでしょうか? 調べるの無理そう)
アメコミとかは元が横書きなので、翻訳文も横書きですよね。
この疑問、言語表現的な問題にも繋げられそう。
全編横書きの純日本漫画があっても面白いかも。(既にあるかも。不勉強で御免)
そして、ヴァンパイア風の男の台詞、縦書きになるときが二カ所(細かく言うと三カ所)あるんですけど、そのシーンは「弱肉強食の関係が逆転する瞬間」なのかな、と思いました。
一つ目は、珠世さんの惑血が発動して、ヴァンパイア風男が押されている場面。
二つ目は、ヴァンパイア風男が追い詰められて、橋へ飛び乗ろうとしたシーンから、義勇さん風剣士に殺されるまで。
この二つのシーン。もしかしたら、このヴァンパイア風男、元は人間で、狩られる方であった感覚を思い出している瞬間なのかも、と類推しました。
……深読みしすぎですかね笑
でも、そんな深読みを呼び込むためにも、こういった表現の工夫が必要なんでしょうね。
『過狩り狩り』、傑作です。
『文殊史郎兄弟』は、特殊能力モノの側面が色濃く出た作品ですね。
あとがき曰く『妖怪人間ベム』の影響。
「人の中に住む虫」をテーマにした作品。最近のアニメ映画で『アラーニェの虫籠』も、そういったテーマだったと思います。
『文殊史郎兄弟』。かなり一方的な力の描かれ方、ということが言えると思います。
それ故、果たされた復讐には、一抹のむなしさが付きまといます。
書いてて気付いたんですけど、『肋骨さん』『蠅庭のジグザグ』もテーマの一つとして、復讐が採用されてるんですね。『鬼滅の刃』もそうですね。
ここまで一貫して「復讐」を描きながら、暗い作風になることはなく、少年誌的な雰囲気を保っているのは、キャラたちが「復讐」を通じて、前に進もうとしているからではないでしょうか。
清算して、きれいさっぱり忘れるためではなく、ちゃんと過去の因果とカタをつけて、「その過去すら、自分のなかに受け継いでいく努力」をしているのだと思います。
それは決してマイナスなことではなく、未来へ向かうための一歩です。
長くなっちゃったので、今回はここら辺でお開き。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。
ちょくちょく書いてるので、またのぞきに来てくれたら嬉しいです。
では、また。